『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群 宗像大社宮司の葦津敬之氏が語る「宗像の歴史と未来」後編

2017年02月06日

 7月の世界文化遺産登録への期待が高まる「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」。その構成資産は、宗像大社の沖津宮、中津宮、辺津宮と新原・奴山古墳群です。

 西日本支店長会12月例会は、宗像大社宮司の葦津敬之氏による「宗像の歴史と未来」。神社人、神主としての日本のはじまりや皇室の歴史を語ったあと、宗像三女神を祀る宗像大社の歴史、海の民であった宗像一族などに触れながら、世界文化遺産に向けての基本的な考え方、宗像の海を守るための取り組みについて語っていただきました。

(講演日:2016年12月21日)

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世界文化遺産

 宗像はこのまま順調に推移すれば、来年7月には世界文化遺産に登録されます。しかし世界遺産になれば、最も重要な構成資産である沖ノ島にも行けると思われていますが、全く逆です。

 今回の世界遺産の基本的な考え方は、「守るべきもの」と「開示すべきもの」に分けられていることが大きな特徴となっています。沖ノ島は今でも厳しい禁忌があり、女人禁制、海中禊ぎ、一木一草一石たりとも持ち出しを禁じています。そのため「女性は渡れないのですか」とよく聞かれますが、実は普通の男性も渡れません。本来は神職だけなのです。

 ユネスコなどの国際機関は、信仰の上に文化があるという考え方のため、実は禁忌は守られるべきものとして、沖ノ島についてはより厳格な管理を求めています。そのためそれ以外の中津宮、辺津宮、古墳群を開示することによって、宗像の文化を理解してもらうというのが今回の世界遺産の基本的な考え方となっています。

 本来、「一木一草一石たり持ち出せない沖ノ島から、なぜ8万点の国宝が持ち出されたのか」とよく尋ねられますが、これについては戦後、宗像大社が大変疲弊し、神社の存続が厳しくなり、当時の関係者たちの大英断によって発掘がなされました。発掘というと穴を掘ったようにイメージをされますが、実は表面採取という方法で、表面にあるものだけを持ち出してきています。そのため、沖ノ島では今でも土中にはたくさんのものが埋まっています。おそらく表面採取という手法を選んだのは、当時の人々の沖ノ島に対する畏怖畏敬の念があったからだと思います。

沖ノ島の自然

 沖ノ島は古代祭祀の貴重な場であると同時に、絶滅危惧種とされるレッドデータブックにある動植物の宝庫でもあります、そのため大勢の人々が島に入ると、生態系が壊れてしまうという問題も抱えています。従って、世界遺産に登録されれば、沖ノ島はもっと厳しい管理になります。

宗像の取り組み

 世界文化遺産は歴史や文化が中心ですが、同時に宗像は海とともに生きてきた地域でもあります。しかし、その海の環境が近年、温暖化などによって悪化し続けています。本来であれば世界遺産に向けて悪い話は避けようとするのでしょうが、ここは谷井宗像市長と相談して、敢えて海の再生活動を前提とした取り組みをしようとなり、3年前に「宗像国際環境100人会議」を立ち上げました。

宗像国際環境100人会議2016

 当初は宗像で国際会議ができるかとの不安もありましたが、結果、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のパチャウリ議長、元東ティモール大統領でノーベル平和賞を受賞されたラモス氏など、国内外の有識者に集まっていただくことができました。さらに折角の機会でもありますので、この会議の関係者たちに、次世代の地元の子供たちを対象とした育成プログラムにも関わって戴くこととなりました。

 そうしましたら、昨年、フランスのパリで国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(CОP21)に向けてのプレイベントに、主催者のオランド大統領より招聘を戴き、高校1年の2名の女子高生を連れて参加することとなりました。当日は子供たちも世界の指導者たちが集まる中、同じステージでスピーチをさせて戴き、それは子供たちにとっても素晴らしい体験となりました。

 今年の第3回宗像国際環境会議は、宗像市の隣の福津市にある福岡県立水産高校の子供たちが、以前から海を再生するため里山の竹を切り出して漁礁を作っていましたので、今回はその高校生たちの指導のもとに竹漁礁をつくり、それに鉄分を含んだスラグを重石にして海に沈めました。また、これに併せて、近年問題となっているマイクロプラスチックの原因である大陸からの漂着ゴミの清掃も行いました。

 私たちの取り組みはこのように小さなものではありますが、宗像が世界遺産なれば発信能力も高まりますし、何よりも海の環境は国境がないため、世界の人々の関心が重要となります。そのためにも世界遺産を契機に、地元では大きな期待をしているとこでもあります。

 今年の夏は、九州北部の海水温度は30度まで上昇しました。長年、海女をやっている人も「今年は3㍍もぐっても暑い。海女をやっていて汗をかくのは初めて」と言っています。

 宗像ではこのような温暖化と磯焼け問題を解消するため、「海の鎮守の森構想」と名付けて、海を再生させようとしています。さらに海のゴミ問題は、そもそも捨てなければ解決できることなのですが、今年はこのような具体的な活動を実践しながら、参加者の総意のもと、「宗像宣言」を採択しました。そして、この宣言を山本環境大臣、日本ユネスコ協会を通してユネスコ本部にも提出してきました。

 来年は、1月1日~3月5日まで九州国立博物館特別展「宗像・沖ノ島と大和朝廷」。2月7日には「宗像PR交流in東京2017」(明治記念館)。7月には「世界文化遺産登録」。7月19日〜31日まで「藤原新也の宗像写真展」(日本橋高島屋本店)。夏には「第4回宗像国際環境会議」。10月には「秋の大祭」。10月29日には天皇皇后両陛下の三大行幸啓の一つ「第37回全国豊かな海づくり大会」が宗像で開催されます。また、先日からは宗像出身の出光興産の創業者、出光佐三氏をモデルとした映画「海賊と呼ばれた男」も上映されています。このように来年は宗像に関する行事や事業が沢山計画されていますので、是非お運び戴ければと存じます。

 本日は貴重な時間を頂戴し、有難うございました。

=2017.1 Branch 西日本支店長会 掲載=

宗像大社 宮司 葦津敬之(あしづたかゆき)

1962(昭和37)年生まれ。1985(同60)年、皇學館大學を卒業後、熱田神宮に奉職。1987(同62)年、神社本庁に奉職し、1996(平成8)年、主事。総務課長、情報管理課長、教学課長、国際課長、参事、財務部長、広報部長を歴任し、2012(平成24)年4月、宗像大社に奉職。2013(同25年)、権宮司に昇任。2015(同27)年6月、宮司に昇任、現在に至る。

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