「丸ごと登録」地元歓喜

2017年07月22日

私たちの沖ノ島が丸ごと認められた-。「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」の世界文化遺産登録が決まった9日夕、地元の福岡県宗像市、福津市は歓喜に沸いた。諮問機関による勧告では除外されていた4資産を含む「逆転登録」に、関係者は笑顔で手を取り合った。

8資産全てが登録を果たし、拍手をして喜ぶ地元の関係者=9日午後6時、福岡県宗像市「海の道むなかた館」

 

大型のスクリーンが設置され、ポーランドの世界遺産委員会の審査の様子がインターネットで中継された「海の道むなかた館」(宗像市)。沖ノ島の登録審査は当初予想されていた委員会2日目(日本時間8日夕~9日未明)から翌日に持ち越されたため、会場に集まった400人の多くは2日連続で審査の行方を見守った。午後5時47分、登録が決まると会場は割れんばかりの拍手に包まれた。

登録に向け、推薦書を執筆した西谷正九州大名誉教授は「8資産の一括登録は確信していたが一抹の不安はあり、決まってほっとした。人事を尽くして天命を待つの気持ちで、ずっと宗像大社に参っていた」と安堵(あんど)の表情を見せた。

女人禁制など厳しい渡島制限がある沖ノ島と異なり、「逆転登録」した4資産ではボランティアが観光客らを迎え、沖ノ島信仰を伝える。主に新原(しんばる)・奴山(ぬやま)古墳群(福津市)で活動する福津市観光協会ボランティア「いさば会」の有吉敏高会長(68)は「(除外勧告で)世界遺産推進の看板を外さなければならないのかと弱気になったこともあったが、杞憂(きゆう)に終わってほっとした」。宗像市の「沖ノ島市民の会」で遺産の保存管理策を探る平松秋子さん(71)は「審議の中で女人禁制に触れた際、私たち地元の女性たちが保全に積極参加していることが評価されて本当にうれしかった」と声を弾ませた。

観光業界は波及効果に期待する。会場で見守った九州観光推進機構の石原進会長は「九州の新たな魅力として世界遺産の価値や歴史的ストーリーを海外の方々にも広く知ってもらえる」。福岡県の小川洋知事は県庁で記者団に対し「われわれの自然観、信仰の形が国際社会に認められた。貴重な財産を誇りと責任を持って守っていく」と述べた。

 

信仰が島守る

かつて仕えた宗像大社の境内で沖ノ島を語る楠本正さん

絶海の孤島に10日間、一人きり。宗像大社(福岡県宗像市)の神職は沖ノ島にある沖津宮(おきつみや)へ交代で行き、神事を営む日々を送る。民俗学者の楠本正さん(86)=宗像市=も、神職の頃は荒波を越えて何度も沖ノ島に渡った。「沖ノ島の姿が永遠に保たれること。それが古代から続けてきた信仰の証しです」。世界遺産になっても変わることはない。

山口県の神社から、32歳の時に宗像大社へ。最初の週、初めて渡った沖ノ島で途方に暮れた。「どうやって時間をつぶせばいいのか。一人きりで生活のリズムが分からなかった」

やがて漁船が島に立ち寄るのに気付き、取れた魚を手に社務所を訪れる漁師と酒を酌み交わすようになった。宗像の大島や鐘崎、山口県、長崎県壱岐、対馬からも来た。狙っている魚、船の構造、信仰、海に禁忌はあるのか-。漁師の風習に興味が尽きず、神職を辞めて研究者になった。

神職の頃、本土に戻るために乗った漁船が動かなくなったことがある。「靴に(沖ノ島の)砂がついていないか」。漁師に言われて砂を払うと、船は動きだした。一木一草たりとも持ち出してはならない。沖ノ島の禁忌を厳格に守る漁師の信心深さに驚いた。

昭和50年代、釣りブームで遊漁船が大挙して沖ノ島周辺に現れるようになり、漁船とのいさかいや事故が起きた。「海は誰のものでもない」と主張する遊漁船に向かって、漁師が叫ぶ姿が忘れられない。「わしらは、この海に生活を懸けとるんばい」。世界遺産登録をきっかけに、観光目的の船が押し寄せはしないか、少し気掛かりだ。

神を中心に漁師たちと交流した沖ノ島の日々。漁師たちは昔も今も、取れた魚を沖津宮に献じることを欠かさない。「敬いながら畏怖する漁師の素朴な信仰心こそが、島を永遠に守ってくれる」と信じている。

原始宗教 世界が理解

沖ノ島を研究してきた専門家からは世界遺産登録決定を評価しつつ、課題を指摘する声も聞かれた。

1954~71年に行われた沖ノ島の学術調査で数々の遺物が出土し、国家的祭祀(さいし)の様相が明らかになった。全ての調査に携わった福岡大の小田富士雄名誉教授(83)は「沖ノ島で続いた原始宗教が世界の人々に理解された」と喜ぶ一方で、「原始林に囲まれた古代的環境の保全に力を入れてほしい」と注文を加えた。

沖ノ島で続く女人禁制などの禁忌を研究する米国出身のリンジー・デウィット九州大訪問研究員(34)は「禁忌についての賛否はともかく、日本の歴史と文化の一部であることは確か」と指摘。観光への波及効果を期待する声もあるが、「世界遺産の目的は観光ではないことを忘れないでほしい」と語った。

九州国立博物館は今春、特別展「宗像・沖ノ島と大和朝廷」を開いた。担当した小嶋篤研究員(34)は「出土品や祭祀の研究は余地があり、研究の機運が高まる」と期待する。同館は常設展で沖ノ島出土品を展示し、島内の様子を映像で紹介している。小嶋さんは「今後も沖ノ島の魅力を国内外に発信していきたい」と話した。

 

=2017年7月10日付 西日本新聞朝刊=

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