日本書紀が伝える「筑豊百余国の王たち」【連載 新説・日本書紀②】

2018年02月07日

神代の神々は「王」だった

日本書紀(やまとのふみ)の神々の系譜は恐ろしいくらい複雑だ。本文で初代神武天皇につながる神の系譜と同時に、一書(あるふみ)群で異なる説話(系譜)を記す。これこそ古事記序文にある「諸家の〓(も)てる帝紀」の反映だろう。本来、神代の神々は「王(きみ)」で、諸家とあるように「倭人は山島に依りて居を為し、およそ百余国あり、国ごとに皆王と称し」(後漢書)たらしい。日中の史書から推測すると、彼らは「古遠賀湾の島と沿岸の山」に居をなしたようだ。

古遠賀湾などを再現した古代倭国地図=福永晋三氏作成

984年、日本国の僧〓然(ちょうねん)が宋の太宗に「王年代紀」を献上した。平安時代の東大寺に伝わっていたようだが、現在は失われ、中国の「宋史日本国伝」に残されていた。記紀と異なり「初めの主は天御中主(あめのみなかぬし)と号す。次は天村雲尊(あめのむらくものみこと)と曰う、其の後は皆尊(みこと)を以て号と為す」として、天八重雲(あめのやえくも)、伊弉諾(いざなぎ)、素戔烏(すさのお)、天照大神(あまてらすおおみかみ)、正哉吾勝速日天押穂耳(まさかあかつはやひあめのおしほみみ)、天彦(あまつひこ)、彦瀲(ひこなぎさ)など21人の尊を連ね、「凡そ二十三世、並びに筑紫の日向宮(ひむかしのみや)に都す。彦瀲の第四子を神武天皇と号す」と記している。大胆に「万世一系」の系譜と、神武に直結する二十三世の王(神)が記されている。

私は、全て筑紫の東すなわち豊国(豊前国)に都を置いたと解いた。

例えば、天村雲尊は英彦山神宮の上宮に祭られ、伊弉諾尊は多賀神社や日少宮など筑豊の各神社に祭られている。素戔烏尊も須佐神社や祇園社に、天照大神尊も実は、宮若市磯光の天照宮や飯塚市の天照神社をはじめ、遠賀川水系や彦山川水系の各神社に広く祭られる。正哉吾勝速日天押穂耳尊は田川の神である。天彦尊(=瓊瓊杵尊(ににぎのみこと))は嘉麻市の馬見神社などに祭られ、宮若市の六ケ岳がその陵だとの伝承も残る。この神々(王)の系譜を熟考すると、どうやら戦前の国史に名高い「天孫降臨」の系譜のようだ。

天孫降臨は豊国侵略説話

「天照大神の孫、瓊瓊杵尊が三種の神器を下賜され、豊葦原(とよあしはら)の水穂国(みずほのくに)(=豊葦原中国(とよあしはらのなかつくに))に天降った」というのが天孫降臨の骨格だ。古事記にはこうある。「天之(あまの)石(いわ)位(くら)を離れ、天之八重多那雲(あまのやえたなぐも)を押し分けて、伊都能知和岐知和岐弖(いつのちわきちわきて)、天浮橋(あめのうきはし)に、うきじまり、そりたたして、竺紫日向之高千穗之久士布流多氣(ちくしのひむかしのたかちほのくじふるたけ)に天降り坐(ま)しき」。天之石位は沖ノ島(宗像市)と思われる。「ここは韓国に向かい、笠沙(かささ)の御前(みさき)に真来通りて、朝日の直(ただ)刺(さ)す国、夕日の日照る国なり」から、宮地嶽神社(福津市)の「光の道」が導き出され、直近の対馬見山が天孫降臨地と比定できる。

天孫降臨は瓊瓊杵尊一代限りの事業ではなく、何代にもわたり繰り返された「豊葦原水穂国への侵略」の歴史だった。古代の筑豊は、遠賀川式土器に代表されるように水穂の国だ。山には木の実が実り、鹿や猪の鳥獣があふれ、北に玄界灘、東に周防灘、内に古遠賀湾と、魚やクジラの豊かな海もあった。筑豊の多数の縄文~弥生の貝塚遺跡が証明する。

近年提唱された「森と水の循環系を守った持続型の稲作漁労文明」が、確かに古代筑豊に栄えていた。そこに何度も王権交代が起きた。それこそが日本書紀の神代の歴史事実だろう。書紀神代の説話は、断じて、ギリシャ神話などのいわゆる「神話」ではない。わが国の「神」は生きている間は「人」だった。日本書紀はもともと「史書」だ。書紀の神々は、結局、稲作の始まった弥生時代の「筑豊百余国の王たち」なのだ。(記紀万葉研究家 福永晋三)

=2018年2月3日付 西日本新聞朝刊筑豊版=

王年代記に記された二十三世の王(神)

1.天御中主(あめのみなかぬし)
2.天村雲尊(あめのむらくものみこと)
3.天八重雲尊(あめのやえくものみこと)
4.天弥聞尊(あめのににぎのみこと)
5.天忍勝尊(あめのおしかつのみこと)
6.瞻波尊(みなみのみこと)
7.萬魂尊(よろずむすひのみこと)
8.利利魂尊(ととむすひのみこと)
9.國狭槌尊(くにさづちのみこと)
10.角龔魂尊(つのそむすひのみこと)
11.汲津丹尊(くみつにのみこと)
12.面垂見尊(おもだるみのみこと)
13.國常立尊(くにとこたちのみこと)
14.天鑑尊(あめのかがみのみこと)
15.天萬尊(あめのよろずのみこと)
16.沫名杵尊(あわなぎのみこと)
17.伊弉諾尊(いざなぎのみこと)
18.素戔烏尊(すさのおのみこと)
19.天照大神尊 (あまてらすおおみかみのみこと)
20.正哉吾勝速日天押穂耳尊(まさかあかつはやひあめのおしほみみのみこと)
21.天彦尊(あまつひこのみこと)
22.炎尊(ほむらのみこと)
23.彦瀲尊(ひこなぎさのみこと)
 

住所:日本、福岡県田川郡香春町高野994 香春町役場

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