「沖ノ島」信仰 地元歓迎の一方、落胆も

2017年05月10日

福岡県の「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」(宗像市、福津市)は、宗像大社沖津宮(おきつみや)(沖ノ島と三つの岩礁)が世界文化遺産に登録される見通しとなった。構成資産8件のうち4件の除外が条件とされ、全ての登録を期待している地元からは、「1600年以上続く信仰が世界に評価された」と歓迎の声が上がる一方、落胆する声も聞かれた。

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関、国際記念物遺跡会議(イコモス)の勧告は、5日深夜に地元関係者に伝わった。

宗像市の谷井博美市長は「沖ノ島そのものは、(勧告は)間違いないと思っていたが、実際には厳しい内容で驚き、正直言って残念な気持ちが大きい。資料分析ができていないので内容の検討はこれからだが、全ての構成資産が認めてもらえるよう、沖ノ島との関連性を十分に説明して、7月の登録までしっかり頑張りたい」と気を引き締めた。

構成資産の一つの「新原(しんばる)・奴山(ぬやま)古墳群」のある福津市の原崎智仁市長は「沖ノ島の歴史的価値が評価されたことはうれしく思う」と評価。その上で地元資産の除外勧告は「やっぱり世界遺産の道はたやすくはない。世界遺産の数が増えており、審査がより厳しくなっていると実感する」と声を落とした。それでも7月の正式登録に向けて「勧告は勧告として受け止めながら、市内部、県や宗像市と連携を取り、古墳群の価値を伝えていけるよう最後まで努力する」と力を込めた。

地元の漁師たちは航海の安全と豊漁を願い、沖ノ島を信仰の対象としてきた。宗像漁協の中村忠彦組合長(65)は「世界遺産のある海になることが、漁村の活性化につながるとうれしい」と前向きに捉えた。しかし観光客の増加には不安もある。一般の上陸を禁止している沖ノ島一帯を航行する船が増える可能性もあり、中村組合長は「訪れる人が増えたら、漁に影響が出ないだろうか」と心配も口にした。

 

「民つないだ伝統継承へ」

沖ノ島は、宗像大社の神職しか立ち入ることができない。島の一木一草たりとも持ち出さない。見聞きしたことを他言しない。地元の人たちは禁忌を守り、神聖な場を保ち続けた。こうして生まれた信仰の形が、遠くから沖ノ島を拝む「遥拝(ようはい)」。宗像歴史観光ボランティアの会(福岡県宗像市)の安永憲男さん(70)は「遥拝は、沖ノ島に行くことだけが信仰ではないことを教えてくれる」と話す。

沖ノ島が見える方向を説明する安永憲男さん=2日、福岡県宗像市

宗像市生まれだが、定年後に始めた観光ボランティアの研修で遥拝を初めて知った。かつて九州本土にも遥拝所が数カ所にあり、田植えの後などに農民たちが集う「沖ノ島ごもり」の風習があったという。安永さんは「先祖たちは沖ノ島が見える場所を探しては、手を合わせていたのだな」と感銘を覚えた。自分も同じように、沖ノ島が見える場所を探し始めた。

国道脇の駐車場、公園の遊歩道、内陸部の山頂…。安永さんが選んだ「沖ノ島が見える場所」は宗像市と福岡県福津市内の13カ所。場所によって見え方は違う。「意外な場所から見えることを教えると、観光客が関心を持ってくれます」

沖ノ島に最も近い大島にある沖津宮(おきつみや)遥拝所(ようはいしょ)。ここに観光客を案内するとき、安永さんは「多くの神社は参拝するための拝殿と本殿が続いていますが、沖津宮は拝殿が大島に、本殿が沖ノ島にあるのですよ」と説明する。玄界灘全体が境内。実にスケールの大きな信仰だと思う。世界文化遺産登録が正式に決まる7月が待ち遠しい。「民(たみ)がつないできた遥拝の伝統。その歴史と人々の思いを、もっと観光客に伝えたい」。歴史に連なる地域の民の一人として。

 

=2017年5月6日付 西日本新聞朝刊=

 

 

 

 

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